動物性乳酸菌と植物性乳酸菌に優劣はない。イメージの独り歩きに注意
「植物性乳酸菌」という言葉が主に商品のアピールとして使われるようになってきてから、その対極にあるものとして動物性乳酸菌という呼ばれ方をするものもあらわれました。
端的に言えばヨーグルトを作っている菌に代表されるものですが、今のところ厳密な定義のようなものは見当たりません。学問上はある程度定義されていますが、私たちの生活には、あまり影響しないんじゃないかと思います。
動物性乳酸菌とはいったい何か、どのような食品に含まれ、そしてどのような効果を私たちにもたらしてくれるのか、お話します。
この記事の目次
動物性乳酸菌には植物由来のものもある
植物性乳酸菌のところでもお話ししましたが、乳酸菌を植物性や動物性に分けること自体、厳密な定義ができるものではありません。
研究者の先生が、培地に含まれる必要栄養素に基づいて、素人にもわかりやすいように分類した言葉が独り歩きしたようです。
乳酸菌に優劣はありません。強いて言うなら、人間への好適度が異なるという程度で、そのことも植物由来のものが優れているという事はまったくありません。
動物性乳酸菌の代表はヨーグルト乳酸菌
動物性乳酸菌と言えば、動物性のものを発酵させているとか、動物から分離されたものと言う印象が強いですが、実際には動物の乳を発酵させてヨーグルトなどを作り出す菌と同義で使われていることが多い名前です。
ヨーグルトについては、他の記事でも幾度か紹介してきた通り、国際的な食品規格であるCODEX規格に基準が定められています。
ヨーグルトについては、製品1g中に乳酸菌が1000万個以上含まれていることが求められます。
その乳酸菌のうち、ラクトバチルス属デルブルッキー種ブルガリクス亜種(通称:ブルガリア菌)と、ストレプトコッカス属サーモフィルス種(通称:サーモフィルス菌)が、それぞれ100万個以上であることを要件としています。
日本の食品衛生法の細則を決めている、通称:乳等省令ではこうした菌種の規定はなく、製品1mL中乳酸菌または酵母が1000万個以上であればOKです。
なお、国際規格でも日本の規格でも、菌種以外に乳成分に関する数値的な基準も決められています。
とは言え、日本のヨーグルトも、カスピ海ヨーグルトのような一部の特殊な製品を除けば、ほとんどがブルガリア菌とサーモフィルス菌で作られています。
100gあたりビフィズス菌を20億個以上含んでいるとしている森永ビヒダスも、ビフィズス菌とガセリ菌を合わせて15億個以上含んでいるとしている雪印メグミルクのナチュレ恵も、どちらもベースになるヨーグルトはブルガリア菌とサーモフィルス菌で作られていることが公開されています。
ブルガリア菌もサーモフィルス菌も植物から見つかっている
ブルガリア菌の一つ、ラクトバチルス属デルブルッキー種ブルガリクス亜種GLB44株はその一つです。
GLB44株はブルガリアでマツユキソウの葉っぱから分離された乳酸菌です。マツユキソウはスノードロップの英名でも知られる春の花です。
(出典:Galanthus nivalis ‘Anglesey Abbey’ – snowdrop ‘Anglesey Abbey’|Royal Horticultural Society Gardening)
ブルガリアの伝統的な儀式では、5月6日の聖ゲオルギの祭日に、乙女が木の葉にたまった露を集めて、それをミルクに注いでヨーグルトを作ると言う物があるそうです。
ブルガリアのマツユキソウは、森の中でよく見られるようですから、もしかするとそこにブルガリア菌が棲んでいたのかも知れませんね。
また、インドの酪農研究所が2013年に発表した研究報告によると、大規模研究の中で植物から分離された乳酸菌のうち74種類の菌株がサーモフィルス菌であることが分かったという事です。
ヨーグルトを作り出す代表的な動物性乳酸菌であっても、植物から分離されることもあるのです。
植物性乳酸菌と動物性乳酸菌では栄養の要求性が違うだけ
乳酸菌サプリのメーカーなどが「植物性乳酸菌は厳しい環境に耐えるから健康に良い」と言ったアピールをしているのをよく見かけます。
これがすべて間違いだとは言いませんが、植物性乳酸菌と動物性乳酸菌では栄養の要求性が違うだけで、それが乳酸菌の優劣を決定づけるとは思いません。
乳糖は乳酸菌にとってベストな栄養?
乳糖は、ショ糖(砂糖の主成分)と同じように、2個の単糖が結びついた二糖類です。ですので、単糖に分解しないと代謝ができません。乳酸菌の多くは膜輸送体のパーミアーぜによって、乳糖のまま細胞膜を透過させ、菌体内に取り込みます。
そこで、グルコース(ブドウ糖)とガラクトースと言う2種類の単糖に分解し、グルコースは代謝されてエネルギーを取り出され、代謝産物として乳酸を作り出します。
この菌体外多糖にはカスピ海ヨーグルトの粘り気を作り出すものや、R-1乳酸菌の免疫活性物質として利用されるものなど、人間にとって役に立つものがあります。
つまり、人間にとっては便利な乳糖ですが、乳酸菌にとってはグルコースの方が消化の手間がなくて助かるという事もあり得るのです。でも、グルコースでは利用できず、逆に2糖類以上のオリゴ糖しか利用できない乳酸菌もいます。
このように、どんな炭水化物をエサにできるかは乳酸菌ごとに異なりますから、一概に植物性だとか動物性だとかいうことは言えないのです。
しかし、ヨーグルト乳酸菌は、牛乳に含まれる糖質やたんぱく質が最も適した栄養であると言えますし、それを利用して人間の健康に役立つ物質を作ってくれるのです。
アミノ酸やたんぱく質を代謝して有用物質を作る動物性乳酸菌
チーズスターターとして有名な、ラクトバチルス属ヘルベティカス種は、カルピスの研究からも見つかっており、そのCM4株が作り出す物質が、高血圧の対策に使えるとして商品化もされています。
これはラクトトリペプチドと呼ばれる物質のうちの2種類です。たんぱく質を分解して行くと、最終的にアミノ酸になるのですが、その手前でアミノ酸が3つつながったトリペプチドと言う物ができます。
乳酸菌と言うと、乳糖やオリゴ糖、食物繊維などの炭水化物を分解するイメージばかりが先行しますが、乳酸菌も生物ですので、菌体を作る上でたんぱく質も必要です。
そこで、消化酵素を分泌して菌体外でたんぱく質を分解し、アミノ酸になった物を、細胞膜を通して取り込むという方法で得ているのです。
その途中経過であるトリペプチドを、人間が横取りしてありがたく使わせてもらっているというわけですね。
鮒ずしなどは植物性乳酸菌、ヤクルト菌は動物性乳酸菌
滋賀県名産の「くさい食べ物」として有名な鮒ずしですが、これを作り出しているのは、植物性乳酸菌が中心で、いわゆるヨーグルト乳酸菌はあまり見つかっていません。
これは乳酸発酵は米飯をベースに行われるからではないかと考えられます。
サプリ業界が言う動物性乳酸菌とは牛乳がらみのもの
植物性乳酸菌の話題のところでお話ししたように、ヨーロッパの発酵ソーセージなどから分離される乳酸菌は、植物性乳酸菌に分類されているものが多くあります。
本来であれば、肉を発酵させられるのですから動物性乳酸菌とも考えられるのですが、植物から分離されることがあるという事で植物性にまとめられてしまっています。
これは、商業的バイアスがかかった部分も否定できないでしょう。ですから、動物性・植物性と分けるよりは、乳性・非乳性ぐらいに分類しておいた方が正確かも知れませんね。
動物性だから生きて腸まで届かないわけでもない
「植物性だから生きて腸まで届きやすい」と言うアピールもよく見ます。しかし、動物性だから生きて腸まで届かないという事はあり得ません。
例えば、もともとはチーズスターターとして利用されていたラクトバチルス属カゼイ種の乳酸菌は、ミルクを発酵させる動物性であることは間違いありません。カゼイとはラテン語でチーズのことを指します。
もともと代田博士は、胃酸に殺菌されない乳酸菌を探していたのですから当然ですが、ヤクルト菌は生きて腸まで届く動物性乳酸菌です。
日本人にとっては植物性の方がなじみ深いかもしれない
ヨーグルトが日本で普及してから、まだ50年くらいでしょうか。もしかしたらもっと短いかもしれません。それに比べれば、ぬか漬け・発酵漬けや、なれ寿司は数百年の食習慣のある食べ物です。
ですから、日本人にとってはいわゆる植物性乳酸菌の方が体になじんでいるかも知れません。とは言え、実際にそうしたお漬物や、発酵食品を日常的に摂っているかと言うと、そうした食習慣は廃れつつあります。
ですので、ヨーグルトやチーズなどを積極的に取り込んで、動物性乳酸菌もフルに利用することが、健康的な食習慣につながるのではないでしょうか。
植物性乳酸菌については、関連記事に詳しいのでそちらを見て下さい。
▼関連記事
植物性乳酸菌の効果。生きて腸に届くけど実は腸に定着しない!?