発酵と腐敗の違いとは。実はただ人間の都合だけで決まっている

発酵と腐敗は同じものであるという説明はよく見聞きすると思います。これって本当なのでしょうか。たしかによく似た現象ですし、メカニズム的には同じと言っていいのかもしれません。

しかし、やはり腐敗と発酵の間には大きな違いがありますので、異なる現象だと捉えておいたほうが良いですね。

「腐敗と発酵」は人間の役に立つかどうかという判断基準

腐敗と発酵というのは、どちらも微生物によって有機物が変化する現象です。身近な例で言うと、食べ物が人間より先に細菌や真菌によって利用され、異なったものになる変化のことを指します。

変化したものに毒があったり、異臭や不快な味があったりする場合、これを腐敗と呼びますが、変化したものが有益であったり、美味しくなったりする場合は発酵と呼んでいます。

食品以外の現象は別に考える

昔の話ではありますが、人糞を肥料として使っていた時代には、その中には寄生虫の卵など害になるものが含まれていました。そこで、肥溜めの中で糞尿を発酵させ、発酵熱で寄生虫の卵を殺すという工夫も行われていたのです。

人糞はたとえ加熱したとしても食べられるものではありませんが、この現象は役に立つことから「発酵」と呼ばれていたようですね。同じことは堆肥作りでも利用されており、稲わらなどを積み上げた堆肥化されている原料からは、湯気が上がるという景色がよく見られたそうです。

さらに、落ち葉や枯れ木にカビや細菌が繁殖し、それが土に還って肥えさせてくれるという現象はどこにでも存在します。これを腐敗と呼ぶか発酵と呼ぶかは人によって異なります。ですので、今回の話題からは省いて、食品に対するものだけを考えることにしましょう。

生理的に受け入れられるかどうかの問題

例えば納豆を見た場合、嫌いな人も多いですね。もともと納豆を食べる習慣がなかった京都以外の関西地方では、納豆嫌いが多いとも聞きます。京都では江戸時代には納豆売りが街を歩いていたそうです。

一休さんで知られる大徳寺には、調味料として利用される大徳寺納豆がありますし、その周辺地域の紫野・紫竹地域には大粒の糸引き納豆が古くから存在しています

客観的に見れば、納豆とはバチルス属サブティリス種の一変種の細菌によって、炭水化物が分解され粘りのある多糖類が形成されたり、たんぱく質が分解されポリグルタミン酸という成分が形成されたりして、それが混じり合って糸を引くようにになった豆です。

納豆菌と近縁で細菌兵器にも使われる炭疽菌の莢膜が、納豆の粘りと同じポリグルタミン酸であることから、西洋では長い間嫌われていたという「科学的な生理的嫌悪感」と言うものもあったようです。

たんぱく質が分解される家庭でアンモニアなどの悪臭物質も発生しますから、その臭いも納豆が嫌われる原因の一つです。こうした理由で納豆が嫌いな人にとっては、大豆が納豆になるのは「発酵ではなく腐敗である」と感じるのも無理のないことです。

ヨーグルトやチーズにも独特の発酵臭がありますから、嫌いな人にとってはそれも「腐ったにおい」かも知れませんね。

また、世界的に臭い食品として有名なスウェーデンのシュールストレミング(ニシンの塩漬けを発酵させたもの)と、韓国南部のホンオフェ(生のエイを発酵させたもの)があります。

▼シュールストレミング
シュールストレミング写真1
シュールストレミング写真2
(出典:Surstromming|Essen und Trinken)

シュールストレミングの缶を開けるには、充分な防御が必要なようです。

▼ホンオフェとニラの和え物
ホンオフェとニラの和え物写真
(出典:ホンオフェとマッコリで乾杯|effectivecode.tistory.com)

古くなったシュールストレミングの缶詰が発見された時には爆発物処理班が出動したとか、ホンオフェを長く口に含んでいるとアンモニアで口の中がただれるとか、とても食品とは思えないような逸話が伝え聞かれますが、現地の人達には伝統ある食品なのです。

もちろん、一般の日本人にとっては「腐敗した何か」としか言いようがないと思います。このように、腐敗と発酵の間には食習慣などの社会的条件というのも評価に大きく関わってくるのです。

画面からは臭いがお届け出来ないのが、良かったような残念なような…微妙な気持ちです。

一般的な腐敗と発酵はたんぱく質と炭水化物が主役

一般的に腐敗と呼ばれる現象には、たんぱく質が微生物によって変性してしまうことが大きく関わっています。その際に、アンモニアや硫化水素と言った悪臭物質が生まれるため、腐敗したものからは嫌な匂いが漂うのです。

この変性にはさまざまな物質と、数多くの微生物が関係するため、その組み合わせは非常に多岐にわたり、一言で説明できるものではありません。

腐敗と発酵の微妙な境目

当然の話ですが、先に説明した通り「人間にとって不都合な現象」が腐敗ですから、腐敗したものは食べられないと考えて差し支えありません。

例えば、卵の腐ったにおいを持つとされる毒性物質である硫化水素は、まさにその通りで、卵のたんぱく質が細菌などによって変性すると発生する気体です。

硫化水素は、メチオニン・システイン・ホモシステインと言う分子構造に硫黄を含んでいるアミノ酸が分解される時に出てきます。また、厳密にはアミノ酸ではないのですが、タウリンも硫黄を分子構造に持っている物質です。

アンモニアも毒性を持つ気体です。アンモニアは別名窒化水素と呼ばれるように、窒素と水素でできた分子です。三大栄養素の中では一部の例外を除いて、窒素はたんぱく質にだけ含まれます。

ですから、アンモニアはたんぱく質が分解される時に出てくるということになるのです。

このように、硫化水素やアンモニアは腐敗臭の大きな要素なのですが、発酵と呼ばれる人間に有用な現象でも発生することがあります。

先に少しお話した通り、納豆のにおいにもアンモニアが含まれます。もちろん身体に害があるほどの高濃度にはなっていませんから、安心して食べて下さい。

臭い食べ物の代表として紹介した、シュールストレミングやホンオフェからもアンモニアは検出されます。ホンオフェに至っては、気をつけないと粘膜がただれるぐらいアンモニアが含まれています。でも、現地では伝統食品なのです。

食品加工の工程でも悪臭は発生する

さらに、発酵でも腐敗でもない現象でも悪臭物質は発生します。中華料理でおなじみのピータンは、アヒルの卵に石灰などの強アルカリの物を塗りつけ、長期間熟成したものです。微生物による発酵ではなく、強アルカリによるたんぱく質の変性を利用しています。

▼台湾のピータン
台湾のピータン写真
(出典:皮蛋的独特味,靠這招就能去除?|食譜自由配)

ピータンは皮をむいてすぐはアンモニア臭や硫化水素臭が強く感じられます。ですので、切って一時間ほど空気にさらして、におい抜きをしたほうが美味しく食べられますね。

この悪臭物質は、強アルカリによってたんぱく質が変性したことで発生しているのです。

臭いだけで腐敗を判断することは難しい

このように、悪臭物質が発生する「発酵」も少なくありませんし、「熟成」過程でもアンモニアや硫化水素が発生することもあります。

一方で、食中毒菌の中には食物を大きく変質させることなく繁殖してしまう菌も数多くあります。特に怖いのは腸管出血性大腸菌O157ですね。最悪の場合、わずか100個程度の菌を取り込んだだけで発症することすらあるのです。

このレベルでは食品に異臭や見た目の異常などは発生しません。また、他の食中毒菌であっても、腐った食べ物だけで発生するのではなく、食べ物自体に異常が感じられなくても食中毒は起こり得ます。

ですから、食品の取扱いには充分な注意が必要ですので、食中毒予防のパンフレットなどを参考に、普段から意識するようにしておきましょう。

発酵食品は腐りにくい?

発酵の中心は炭水化物が微生物によって利用され、有機酸やアルコールを作り出す現象です。この際にたんぱく質も変成したり、ビタミン類が作り出されたりということも副次的に起こる可能性があります。

また、菌体外多糖として乳酸菌が粘り気を作ったり、納豆菌がポリグルタミン酸の糸を安定させるフルクタンと言う多糖類を作ったりもします。これらの多くの現象は人間に役立つ現象なので発酵と呼ばれます。

発酵した食品には、発酵を起こした菌が支配的になっていますので、他の細菌などが繁殖しにくいのは事実です。例えば納豆を冷蔵庫で長期保存すると、白いカビのようなものが生えたり、柔らかくなったりすることがあります。

しかし、それはアミノ酸が析出したものであったり、納豆菌による発酵が進んで軟化したりした物のケースが多いです。しかし、本物のカビであったり、腐敗による組織の崩れである可能性を完全に否定することはできません。

また、ヨーグルトは乳酸菌によって酸性になっているため、他の菌が繁殖しにくいです。しかし、長期間冷蔵庫においておくと、乳酸菌のエサである乳糖が使い尽くされて、乳酸菌が死滅することもあり得ないわけではありません。

こうしたことは、においや見た目だけでは判断できません。未開封の場合は賞味期限や消費期限を参考にし、開封後はできるだけ早く食べ切りましょう。

滋賀県の鮒ずしも、かなり強いにおいがする発酵食品ですね。慣れない人にとっては悪臭以外の何物でもありません。でも、昔から「お腹の調子が悪い時に食べる薬」と言う側面も持っていたのです。

発酵と腐敗は異なるものと意識した方が良い

このように、ちょっと見た目には紙一重の関係にあるように見える発酵と腐敗ですが、食べて毒になるかどうかと言う事を中心に考えれば、明らかに異なるものといえるでしょう。

また、例えば魚肉練り製品でよく見られる「ネト」と言う、粘液性の異物の発生があります。これはさまざまな細菌がかまぼこなどに付着して、糖質を原料に菌体外多糖を作り出すことで発生するものです。

一例として、透明なネトはリューコノストック属メセンテロイデス種が、ショ糖などを原料に作り出す、デキストランという菌体外多糖です。実はこの菌が作り出すデキストランは、無害なだけでなく工業的に利用される有用なものでもあるのです。

ですから、それを洗ってしまえば食べられますし、洗わなくても害はありません。しかし、食品からそんなものが発生したら、腐っていると判断されることも少なくないでしょう。

この現象は食品の価値を下げるという意味で、腐敗に分類しても良いかもしれませんが、腐敗と発酵のどちらにも属さない現象と言う方が正しいと思います。

こうした腐敗とも発酵とも付かない現象を挟んで、人間の役に立つ「発酵」と人間に害をなす「腐敗」が存在していると考えるのが妥当だと言えるでしょう。

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