パッケージの乳酸菌飲料(殺菌)表示の意味

乳酸菌を利用したヨーグルトや飲料に「殺菌乳酸菌」「乳製品乳酸菌飲料(殺菌)」「本品の乳酸菌は殺菌されています」などと書かれていることがあります。

せっかくの乳酸菌発酵食品なのに、殺菌しちゃうってもったいないように思えますよね。

なぜこんなことをするんでしょう。そして、こうした製品に何らかの健康効果はあるのでしょうか。その意味と実力を探ります。

なんと大半は「乳製品乳酸菌飲料(殺菌)」!乳酸菌飲料には定義がある

食品衛生法によって規定される、ヨーグルトなどの「発酵乳」の具体的な内容は、厚生労働省による「乳及び乳製品の成分規格等に関する省令」(略称:乳等省令)附則に規定されています。

2017年7月現在、最新のものは2016年6月8日の厚生労働省令第109号の別表、第一章24項に示されています。

発酵乳など乳酸菌飲料や食品の定義

それによると発酵乳は次のように定義されています。

種別 乳酸菌または酵母の数(生菌) 無脂乳固形分
発酵乳 1mLあたり1000万個以上 8.0%以上
発酵乳(殺菌) 規定なし 8.0%以上
乳製品乳酸菌飲料 1mLあたり1000万個以上 3.0%以上
乳製品乳酸菌飲料(殺菌) 規定なし 3.0%以上
乳酸菌飲料 1mLあたり100万個以上 3.0%未満
清涼飲料水 規定なし 3.0%未満

一番下は省令に規定がない、いわば「枠外」の部分です。この省令は乳製品に関する規定として作られていますので、無脂乳固形分が一定以下のものは、乳酸菌の数が少なければ乳酸菌飲料とは認めないようです。

無脂乳固形分とは、牛乳に含まれる成分のうち、水分と乳脂肪分を除いたものです。具体的には炭水化物である乳糖と、たんぱく質であるカゼインなどがその大半を占めています。

製品化されているものの大半は「乳製品乳酸菌飲料(殺菌)」

発酵乳と言うのは、具体的にはヨーグルトのことを指していると考えても差し支えありません。そのヨーグルトやドリンクヨーグルトを加熱殺菌して、乳酸菌を殺してしまったのが「発酵乳(殺菌)」です。

法的に規定はあるものの、実際このジャンルに分類される商品は見たことがありません。ただ、個人的には近い将来ブームになるかもしれないと思っています。

一方、乳製品乳酸菌飲料と言うのは、菌の数についてはヨーグルトと同じでありながら、無脂乳固形分が少ないものです。つまり「あっさりした発酵乳」のイメージですね。

8.0%の無脂乳固形分と言うのは、牛乳にも用いられる規定ですから、乳製品乳酸菌飲料というのは「牛乳よりは薄いけれど乳製品と呼べる程度には無脂乳固形分が含まれている乳酸菌飲料」と言う意味だと考えて良いでしょう。

この乳製品乳酸菌飲料を加熱殺菌することで、乳酸菌をゼロにした状態のものが乳製品乳酸菌飲料(殺菌)です。なぜこんなことをするのかというと、保存性を高めるためです。

ヨーグルトや乳酸菌飲料は乳酸菌が生きているため、冷蔵庫などに保管して乳酸菌の活動を弱めておかないと、製品に含まれる糖質を利用してどんどん発酵が進んでしまいます。

そうなると製品の質が変わってしまうだけでなく、ヘテロ乳酸発酵と言って乳酸以外の物質も作り出す菌では二酸化炭素を生み出して、容器を破損してしまう可能性もあるのです。

ですから、乳酸菌による発酵が目的のレベルに達したら、加熱殺菌して容器に詰め、常温保存できる状態で流通に乗せるということを行っているわけです。

このことは流通コストを下げ製品を安価に供給できるだけでなく、例えば戦時中の「軍用カルピス」のように、劣悪な保存環境の中でも兵士のお腹の健康を保つことができたという実績もあります。

言い換えれば、乳製品乳酸菌飲料(殺菌)は災害救援物資として備蓄しやすく、電気が使えない避難所にも安心して届けられる健康的な飲料だと言うことになります。

乳製品乳酸菌飲料(殺菌)は乳酸菌が作り出した成分はそのままに、菌だけを殺菌した飲み物だということなのです。

乳酸菌の効果は生菌によるものだけではない

せっかくの乳酸菌を殺してしまったら元も子もないような気がしますが、決してそうではないのです。むしろ「生きて腸まで届く」というコピーが氾濫するまでは、生きた乳酸菌の効果というのは、それほど注目されてなかったとも言えます。

このことは、例えば納豆を見ても判ります。健康の元としてもてはやされているナットウキナーゼと言う酵素は、大豆自体には含まれておらず、加熱した大豆に納豆菌が働くことで作られます。

そして、ナットウキナーゼ自体は納豆菌が生きてようが死んでいようが、関係なく納豆の中に存在しています。もっとも、納豆菌は非常に頑丈な細菌ですので、殺菌するのは難しいですけどね。

乳酸菌が持つ第1の健康効果:細胞外多糖による多方面への効果

乳酸菌には大きく分けて3種類の働きがあって、それぞれが私たちの健康に寄与してくれています。

その中で割合大きな意味を持っているのに、あまり注目されていないのが「乳酸菌が作り出す多糖類による健康効果」です。

乳酸菌が作り出す物質には細胞外多糖(EPS:エキソポリサッカライド)と言うものがあり、これの健康効果が注目されています。

例えば、ラクトバチルス属デルブルッキー種ブルガリクス亜種1073R-1株(通称:R-1乳酸菌)は、風邪やインフルエンザに対する効果で有名ですが、この効果はR-1乳酸菌が作り出す細胞外多糖によるものであることが判っています。

牛乳に含まれる乳糖は、ブドウ糖とガラクトースという2種類の多糖がくっついた二糖類です。R-1乳酸菌は、ブドウ糖2分子とガラクトース3分子をくっつけて1ユニットの五糖を作り、それを繰り返すことで多糖を構成します。

そして、1ユニットごとにガラクトース1分子を側にくっつけて細胞外多糖を完成させます。つまり、4分子の乳糖から2分子のブドウ糖を取り除いて、それを繋げたものが、R-1乳酸菌が作る風邪に効く成分だということです。

取り除いたブドウ糖は、多分乳酸発酵の原料として使われているのでしょう。こうした細胞外多糖は、多くの乳酸菌で見られ、その性質もまちまちです。ラクトコッカス属ラクティス種クレモリス亜種(通称:クレモリス菌)が作る多糖は、カスピ海ヨーグルトに独特の粘りを出していますね。

乳酸発酵が終わっていれば菌の生死にかかわらず有効性が期待できるのが細胞外多糖です。さまざまな乳酸菌に関する実験では「乳酸菌の上澄み液」と言うものが登場しますが、これも成分は細胞外多糖と考えて良いでしょう。

ですから、乳酸菌は生きていないと意味が無いということは決してありません。

乳酸菌が持つ第2の健康効果:乳酸によるエネルギー産生と環境改善

乳酸菌は、使った糖質の半分以上を乳酸に変化させることが、乳酸菌の名前をもらう条件になっています。乳酸は腸の中の環境を酸性に保ち、悪玉菌の繁殖を抑制します。

ヨーグルトなどは既に製品の中に乳酸が含まれているので固まっているわけですから、それを食べることで乳酸は消化管に入ってゆきます。

一方、小腸ではアルカリ性の消化液によって乳酸が中和されてしまう部分もありますから、できれば小腸の後半部分で作ってもらえるとありがたいですね。そういった意味では、腸の中で乳酸を作り出す、生きた乳酸菌のほうが有利です。

さらに、乳酸自体は大腸ではほとんど吸収されません。乳酸をエサにして酪酸やプロピオン酸など、別の短鎖脂肪酸を作り出す細菌によって利用されると、その有機酸を吸収した大腸はそれをエネルギー源にすることができるのです。

普通の臓器は胃腸で消化された栄養素を血液に吸収し、糖質のようにそのまま細胞に送られたり、肝臓で処理した上で血流に乗せて送られたりするものを受け取ってエネルギーとして利用します。

それに対して大腸は、善玉菌が作り出した酪酸やプロピオン酸などの短鎖脂肪酸を細胞に取り込んで、そのままエネルギー源として使うだけでなく、余った分を他の臓器に供給する力を持っています。

つまり、善玉菌優勢の大腸は、自分の蠕動運動に必要なエネルギーを自前で準備できるので、常に快調であることができるのです。この働きは、乳酸菌が生きていないとダメですし、もちろん酪酸菌やプロピオン酸菌も元気である必要があります。

乳酸菌が持つ第3の健康効果:死菌の菌体成分による免疫賦活効果

これは主に免疫に関わるものです。乳酸菌が腸管免疫に働きかけて、全身の免疫力アップに役立つという話は、最近良く耳にするようになってきました。

この働きは乳酸菌の菌体成分が免疫細胞に取り込まれることで効果を示します。それなら乳酸菌は生きていても死んでいてもいいように思えますが、実は死んでいたほうが良いのです。

菌体成分は乳酸菌の外側を構成する細胞壁が、免疫力アップに寄与することもありますが、細胞の中身が役に立つケースが多いのです。特に乳酸菌の遺伝子に関わる核酸が、免疫賦活効果をもたらしているという報告がたくさんあります。

さすがに、生きた乳酸菌では中身を取り出してと言う訳にはいきませんから、免疫細胞によって乳酸菌を殺す必要があります。一方で、善玉菌は免疫寛容と言って攻撃対象にならないことも多いんですよね。

ですから、あらかじめ乳酸菌のパーツに分解して送り込んでやるほうが、効率よく働く可能性が高いのです。

これを最大限に利用したのは、育児関連企業のコンビ株式会社の製品です。エンテロコッカス属フェカリス種EC-12株(通称:EC-12乳酸菌)と言う乳酸球菌を熱殺菌した菌体成分を、効率的に濃縮し、1gあたり5兆個と言う、とんでもない高濃縮を実現しています。

EC-12乳酸菌は、その細胞壁の成分が人体のマクロファージを活性化し、核酸成分が免疫伝達物質であるサイトカインの産生を促します。

このように、死んだ乳酸菌のほうが健康に寄与するという部分もありますから、決して殺菌した乳酸菌飲料に意味が無いとはいえないのです。

乳酸菌にはブルガリア菌のように棒状の形をした桿菌、ビフィズス菌のようにY型やV型の多型桿菌、そしてフェカリス菌のような球菌があります。球菌は他のものに比べてサイズが小さいので、同じ体積に多くの菌を詰め込めるというメリットがあります。

伊藤園とチチヤスが共同開発した「朝のYoo フェカリス菌1000」と言う乳製品乳酸菌飲料(殺菌)も、その名の通りフェカリス菌を利用していて、生菌時には1000億個の乳酸菌が殺菌されてドリンク一本に含まれています。

ただ、この商品は無脂乳固形分が3.0%未満で、乳酸菌を殺菌しているので乳酸菌飲料にはなりません。清涼飲料水の扱いです。

現在では殺菌した乳酸菌の菌数カウントも可能になっているようですので、そろそろ乳酸菌飲料についてはもう少し細分した分類がほしいですね。

また、植物性乳酸菌のラブレのように、乳酸菌はたくさん生きていても、ベースになっているのが豆乳と果汁では、最もレベルの低い乳酸菌飲料扱いになるのもどうかと思います。

菌に重きをおいた分類基準を、日本から世界に発信できるとうれしいですね。厚生労働省のみなさん、ぜひご検討をお願いします。

このように、乳酸菌は必ずしも生きていないとダメというわけではありません。自分にとって役立ちそうなものをしっかり見極めて利用しましょう。

死んだ乳酸菌は意外な効果を持っている

死んだ乳酸菌はその菌体成分が免疫力アップに役立つだけでなく、意外な働きを持っています。それは「不要なものを排泄する働き」です。

腸内環境が整って、善玉菌の働きで悪玉菌をやっつけると、悪玉菌の死菌が腸の中に増えますね。これを吸着して便として排泄しやすくする働きを持っているのです。

さらに、十二指腸や小腸ではコレステロールを吸着して、体内への吸収を阻害することで、大腸に送ってしまうことも知られています。大腸にはコレステロールを吸収する機能はありませんので、そのまま出されてしまいます。

まるで食物繊維のような働きですが、実は食物繊維と同じように善玉菌のエサとして利用されることも知られています。ですので、死んだ乳酸菌も、充分に効果のあるものだと考えてもらって差し支えないでしょう。

この記事をシェア

合わせて読みたい

ページ先頭に戻る