世界のヨーグルト、アジア編。独自の文化からうまれた個性的な食品たち

アジアの発酵乳というとピンとこない人が多いかも知れませんが、元をたどれば西アジアに発祥したものなのです。

西アジアについては別の記事で扱いますので、ここでは南アジアから北アジア・東アジアまでの範囲を見てみましょう。

世界のヨーグルトを見渡した場合、アジアには個性的な発酵乳・ヨーグルトなどが数多く見られるんですよ。

「世界のヨーグルトや乳酸菌食品・飲料、アジア編」です。

インドは東洋で最も古い発酵乳の歴史を持っている

もちろんインド自体の歴史が長いので、食品利用の歴史も長くなるわけですが、すでにこの地域では紀元前4000年~2000年頃にはもう発酵乳の文化が始まっていたそうです。

インドの発酵乳と言えば、インドカレーの専門店で出てくるラッシーがおなじみですね。あれは、ダヒというインドヨーグルトから作っているのです。

ダヒにはサワーとスイートがある

ダヒはインドのヨーグルトです。伝統的な製法としては、牛乳や水牛のミルクを加熱殺菌して、専用の素焼きの壺に入れ、そこに前日のダヒを加えて撹拌し発酵させます。つまり毎日作ることが基本なんですね。

北欧や東欧、旧ソビエト連邦あたりの発酵乳は、どちらかといえば保存用の要素がありましたが、南アジアのインドでは、毎日作るのが基本のようです。

伝統的なダヒの分析によると、主な乳酸菌はストレプトコッカス属ボビス種であったそうです。その他、ブルガリア菌を含むラクトバチルス属デルブルッキー種、ストレプトコッカス属サーモフィルス種(通称:サーモフィルス菌)のような、有名乳酸菌も見つかっています。

このストレプトコッカス属ボビス種は、乳酸菌であると同時に、一定の条件を満たすと病原菌にもなる菌種であるため、現在では有用菌だけを培養して、スターターとしてダヒを作っているそうです。

ダヒは量産品として作られ売られている

ダヒには、まずラクトコッカス属ラクティス種の複数の亜種やリューコノストック属メセンテロイデス種など、いわゆる中温発酵菌を使ったスイートダヒがあります。

それに対して、私たちに馴染みの深いブルガリア菌とサーモフィルス菌をと言う、高温発酵菌を使ったサワーダヒというのがあります。菌の構成から見て、私たちがヨーグルトと言う時に思うイメージに近いのはこちらになると思われます。

もちろんインドのことですから、家内工業的に伝統的なダヒ作りも行われていますが、大手のメーカーによってスーパーで売られるような製品もたくさんあります。

ダヒ商品イメージ
(出典:Danone Dahi – Plain,150gm Cup| bag at home)

また、ヨーロッパの菌株メーカーによって、ダヒ用の混合乳酸菌株も作られています。こうした種菌であれば、日本でも国内通販で求めることができます。

量産品やスターター用の種菌には、中温発酵菌と高温発酵菌がブレンドされていることがほとんどです。ですので、発酵温度を調整することで好みの味が出せます。室温で発酵させると酸味が少なく、ヨーグルトメーカーなどで一定以上の温度を保つと酸味が強くなるでしょう。

本来のラッシーはバターミルクだった

バターミルクというのは、均質化(ホモジナイズド)されていない牛乳を乳酸菌で発酵させたあと、上に浮いてくる脂肪分を集めてバターにしたあとの、残りの液体部分のことです。

ですので、低脂肪のドリンクヨーグルトと言った感じになっています。ダヒから得られたバターミルクのことをラッシーというのが本来のスタイルです。

今では、ダヒに水や牛乳を加えて薄め、調味した飲み物をラッシーと呼んでいることが多いようですね。

ラッシー商品イメージ
(出典:Danone India Outlines Their Approach To The Make In India Campaign)

ラッシーと言えば、私たちは甘味のついたヨーグルトドリンクを連想しますが、実際には甘味のないもの、塩味やスパイスの効いたものなど、さまざまなものがあるんです。

ネパールやチベットはインドと共通するものが多い

位置的な関係や歴史的な経緯もあって、チベットとネパールではインドと同じダヒが作られます。

また、インドを含めてこの地域では、発酵バターを加熱して溶かし、上澄みの脂肪分だけを取り出したバターオイルの「ギー」というものを作ります。水分のない純粋な乳脂肪ですので、高温のお土地柄でも長期保存ができるのです。

ギーはカレーを作るときに欠かせない油ですね。

上の写真はいずれもダノン社の製品ですが、ダノンはインドでヤクルトも売っているんですよ。しかも結構人気だそうです。ダノン社はヤクルト本社の10%の株主でもあるんです。

モンゴルの馬乳酒は季節限定品

アジアの発酵乳と言えば、モンゴルの馬乳酒を抜きに語ることはできません。もちろん、モンゴルという名前で呼んでいますが、文化的には旧ソビエト連邦の中央アジア諸国や、中国の内モンゴル自治区も含まれます。

遊牧民の暮らすこれらの土地では、人間は赤い食べ物と白い食べ物で生きていると言われています。簡単に言えば「肉」と「乳製品」ということなんです。日本人的には「野菜と魚はどうした」と突っ込みたくなりますね。

モンゴルの発酵乳には多くのバリエーションがある

モンゴルでは、五畜と呼ばれる、牛・羊・ヤギ・馬・ラクダという家畜を飼育していて、全ての動物のミルクを乳製品として利用しています。その種類は20種類ともそれ以上とも言われますが、非発酵と自然発酵のものがそれぞれおよそ20%ずつで、残りは種菌を使った発酵です。

また、乳製品の入手が困難になる冬に備えての保存用と、日常に利用するものでも分類することができます。

ミルクを加熱して静かに置いておくと、上にクリーム分が貯まります。それを集めたのがウルムというクリームであり、そこから乳脂肪だけを集めたのがシャル・トスと言うバターオイルです。

このウルムなどを採ったあとの液体部分に、乳酸菌を入れて混ぜ、静かに発酵させたものがタラグと言うドリンクヨーグルトです。

タラグは日常の飲み物ですが、これを型に入れて水分を抜いて圧搾したのがビシラグやホロートと言う、レンネットを使わないチーズです。

これらのチーズは主に冬季貯蔵用として利用されます。このタラグやビシラグ、ホロートなどは乳酸発酵だけによる食品・飲料ですので、私たちが持っているヨーグルトのイメージに近いでしょう。もちろん量産品も存在しています。

タラグ商品イメージ
(出典:Goe tarag | YoutubeにアップされたCM)

タラグとビシラグは非加熱ですので乳酸菌が生きていますが、ホロートは加熱して固めるので、乳酸菌は死んでいる可能性が高いです。

乳酒には蒸留酒もある

ミルクに種菌を入れて、しっかり撹拌しながら発酵させると、好気性菌である酵母が働いて、アルコールと二酸化炭素を作り出します。もちろん嫌気性ではあるけれど通性嫌気性菌の乳酸菌も働いて、乳酸も作り出します。

その結果出来上がるのが、酸乳の味とアルコールと、そして発泡性の爽やかさを持ったアイラグです。アイラグは馬乳酒を含みますが、原料が牛乳でもラクダ乳でもアイラグと呼びます。

ただ、馬乳酒のアイラグは、ロシアのクミスと同じものであると考えて差し支えないでしょう。アイラグは2.5%以上のアルコールを含んだ醸造酒ですが、夏にしか作られません。もちろんこれにも量産品はあります。

アイラグ商品イメージ
(出典:ツイッター・Etv Byambaa女史のツイートから)

それ以外の季節のためには蒸留してアルコール度数の高いアルヒと言う蒸留酒にします。さらに、蒸留の過程で生まれる粕もアールツと言う名前で食品利用されています。

モンゴルの発酵食品に見られる乳酸菌

モンゴルで使われている発酵のための種菌をフルンゲと言いますが、このフルンゲの菌構成はモンゴルや日本の研究者によって明らかにされています。

それによると、アイラグに使われているものでは、サッカロマイセス属セレビシエ種、カンジダ属ケフィル種、クリベロマイセス属マキシアヌス種などの酵母が見つかっています。

また、アイラグからも見つかっていますが、タラグなどの非アルコール性乳酸発酵食品からも共通して、多くの乳酸菌が見つかっています。

ヤクルトでお馴染みのラクトバチルス属カゼイ種やパラカゼイ種、植物性乳酸菌として有名なラクトバチルス属プランタルム種、カスピ海ヨーグルトで知られるラクトコッカス属ラクティス種の他、リューコノストック属やエンテロコッカス属の乳酸菌も見つかったということです。

その他、ヨーロッパでチーズスターターとして使われることが多い、ラクトバチルス属ヘルベチカス種も、一部の食品から見つかっています。

モンゴルは遊牧民の文化ですから、独特の乳製品文化を持っています。ミルクのお酒というだけでも、穀物文化の私たちからはずいぶん変わったものに見えますよね。

独特!インド系とモンゴル系に分かれるアジアの発酵乳

内モンゴルや新疆ウイグル自治区、チベットなど、本来の中国の外側にある地域を除いては、中国に目立った発酵乳文化はありません。このことは朝鮮半島や日本でも同様のことが言えます。

ちょっと話がそれますが、中国と日本の発酵乳文化について面白い写真を見つけましたので紹介します。

中国で販売されているヨーグルトのパッケージ写真
(出典:Homemade Laban (Lebanese Yogurt)|Recipe Nomad)

どこかで見たようなヨーグルトですね。中国でも結構人気の商品なんだそうです。日本では450g入りですが、中国では400gです。その代わり、右肩に「附贈・白砂糖包」とありますから、あちらではまだ砂糖を付けて販売しているようです。

一方、中国の内モンゴル自治区はモンゴルの文化圏ですし、ネパールやパキスタン、バングラディシュは、インドの発酵乳文化をそのまま持っていると言っていいでしょう。

インドシナ半島では発酵乳文化はあまり見られない

インドシナ半島エリアはかつてフランスの植民地であったベトナム・カンボジア・ラオスに、マレー半島のタイとミャンマーを加えた地域です。

宗教的な影響や古くからの食習慣によるものでしょうか、インドシナ半島ではあまり発酵乳の文化は目にしません。もちろん水牛や牛は耕作用としてたくさん飼われていますが、乳を利用する習慣そのものが少なかったようです。

もちろん現在では、日本を含む西側諸国との貿易で、乳製品がたくさん輸入されていますので、都市部のスーパーなどではカルピスも売られているようです。

また、東南アジアと言えば、ナムプラーのような魚醤、お隣の国インドネシアのテンペのような大豆製品など発酵食品文化は非常に豊かです。もともと温暖で湿潤な気候ですから、発酵に関しては有利なお土地柄です。

ナンプラー商品イメージ
(出典:魚から作られるナムプラー。魚醤の有用性と製法。|ネットの知識 (もとはタイ語ですが、文字化けを防ぐために翻訳しました))

なので、本来発酵させるのが難しい植物性のものも、発酵食品として利用できたのでしょう。それに海が近いこともあって、塩分が豊富な海産物を発酵させたというのは、日本とよく似ていますね。

インドネシアには独自の発酵乳文化があった

まずは上で紹介したテンペの写真です。バナナの葉にくるんで、クモノスカビをスターターに使って発酵させます。

テンペ写真
(出典:Tumis Tempe – Stir Fry Tempe|Midnight Visitor)

インドネシアは大きな国です。もちろんすぐ近くには、インドと中国というとてつもなく大きな国がありますから目立ちませんが、人口は日本の2倍くらいあります。

それに世界で最も多い島を持つ島嶼国家で、島の数も日本の2倍くらいあるのです。しかも島が大きいので総面積は日本の5倍にも及びます。

そのため、島ごとの食文化もバリエーションに富んでいて伝統的なものがいろいろあったのですが、現在では大乳業メーカーが提供するプロバイオティクス製品が人気になっていると言うことです。

都市部のスーパーでは、どこでも大量のヤクルトが並んでいるという情報もあります。

一方、伝統的な発酵乳の名前が、ちょっと姿を変えて販売されていると言う物もあります。スマトラ島で作られていたダディ(Dadih)と言うヨーグルトは、竹筒に水牛のミルクを入れて、バナナの葉で蓋をし、2日間くらい常温で発酵させたものです。

ダディ写真
(出典:DADIH (Permented buffalo milk)|Indonesian Food)

食べた人の話によると、チーズのような香りが特徴的だということです。乳酸菌としてはラクトバチルス属プランタルム種を中心に、ラクトコッカス属ラクティス種の複数の亜種やリューコノストック属乳酸菌など、中温発酵乳酸菌が支配的であるようです。

ラクトバチルス属プランタルム種は有名な植物性乳酸菌ですので、竹筒やバナナの葉に由来するのでしょう。

ところが、このダディと言う名前は、現在ではフルーツプリンに使われているようです。日本のインスタントプリンと同じような粉で販売されています。

バニラダディ商品イメージ
(出典:Vanilla Dadih | Messy Witchen)

割合大きい袋ですが、これにエバミルクとお湯を加えてかき混ぜ、シリコン型に流し込んで冷やし固めるだけだということです。インドネシア語と英語、中国語、日本語で解説されているところに不思議さを感じます。

すぐに食べられる小さなパックに入ったプリンのようなスタイルでも、このダディという名前で様々なーカーから発売されています。

「果物のプディング粉」、多分自動翻訳を使ったのでしょうね。便利なのか不便なのか、よくわからないところです。

日本にも大昔発酵乳文化があった

ここまでに紹介したものの他にも、アジアには発酵乳文化が存在しますが、比較的マイナーなのと、他地域の影響下にあるものが多いので、今回は紹介を見送って、日本の発酵乳文化を見て締めくくります。

日本には大陸からやってきた発酵乳文化が、奈良時代の頃には存在していました。ただ、日本に文化を伝えた中国の海沿いの地域北部や朝鮮半島には、独自の発酵乳文化はそれほど見当たりません。

ですので、おそらくモンゴルやヤクート地域(ロシアの北アジア地域)などの発酵乳文化が、中国を通ってやってきたのでしょう。

日本の乳製品としては、乳・酪・蘇・酥・醍醐などがありますが、発酵乳だと分かっているのは「酪」だけです。その他の物については、濃縮乳・チーズ・バターオイル・発酵バターなど様々な説がありますが、今のところはっきりとは分かっていないのです。

酪農の酪は発酵乳の事だったんですね。私たちにもわずかながら発酵乳文化があったようです。

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