世界のヨーグルト東欧編。ブルガリアで本当によく食べられているのは?

世界のヨーグルトを語る上で、東ヨーロッパを避けて通ることはできません。それは「ブルガリア」が東ヨーロッパにあるからです。

日本はもちろん、世界中でブルガリアと言えばヨーグルトの代名詞のようになっていますね。

もちろんヨーグルトがブルガリア生まれだというわけではありません。しかし、世界のヨーグルトで最も標準的なものは、ブルガリアのヨーグルトを下敷きに作られているからなのです。

東ヨーロッパの国々では、どんな乳酸菌食品が食べられているのでしょうか。「世界のヨーグルトや乳酸菌食品・飲料、東欧編」スタートです。

なぜヨーグルトと言えばブルガリア?ブルガリアヨーグルトの歴史

ノーベル賞生理学・医学賞を受賞した、ロシアの免疫学者イリヤ・メチニコフ博士はその著書の中で、ブルガリアが長寿国なのはヨーグルトを常食しているからだと発表し、自身もヨーグルトを常食するようにしました。

そのことが世界の目をヨーグルトに向けさせ、乳酸菌が健康をもたらすという発想につながったのです。ですから、今でもヨーグルトと言えばブルガリアと言うイメージがあるんですね。

ブルガリアは長寿国だと信じられていた

国連統計で見ると、現在のブルガリアの平均寿命は72.71歳で、198か国中中国と並んで同率95位と、ほぼ中間レベルです。ですので特に長寿国というわけではありません。

しかし、メチニコフ博士は19世紀から20世紀にかけて活躍した人ですから、100年ほど前においてブルガリアの長寿ぶりがどの程度であったのかはわかりません。

それに世界の最長寿国である日本に住んでいる私たちは、「あの国が長寿だから同じものを食べよう」と言う目標にされる立場になっているのです。

とは言え、世界の最長寿国になった現在の日本では、ヨーグルトも他の国に負けず劣らずよく食べていますし、大豆や魚の発酵食品は伝統的によく食べていますね。ですから、これからも積極的に発酵食品を摂っていきたいものです。

ブルガリアヨーグルトは世界の基準

他の記事でも何度か触れていますが、食品の世界的基準であるCODEX(コーデックス)規格において、「ヨーグルト」と言う食品には使用される菌に基準があります。製品1グラムあたり1000万個の乳酸菌が使われていることが絶対条件で、この数値は日本の基準とほぼ同じです。

さらに、その乳酸菌のうち、ラクトバチルス属デルブルッキー種ブルガリクス亜種(通称:ブルガリア菌)とストレプトコッカス属サーモフィルス種(通称:サーモフィルス菌)が、それぞれ最低100万個以上含まれていることが求められています。

実際には多くの国のヨーグルトではブルガリア菌とサーモフィルス菌だけで発酵させていることも多く、それに機能性乳酸菌を追加しているというパターンは日本でもおなじみの手法です。

このブルガリア菌とサーモフィルス菌という組み合わせは、ブルガリアの一般的なヨーグルト、キセロ・ムリャコに用いられている菌です。キセロ・ムリャコは牛乳だけでなく水牛の乳や羊の乳でも作られます。キセロ・ムリャコは、直訳すると「酸乳」と言う意味です。

キセロ・ムリャコ商品イメージ
(出典:Киселото мляко полезно за мозъка(ヨーグルトは脳に役立つ食品)|Лактима Балкан – www.lactima.bg)

これを水割りにして、塩味で飲むのがアイリャンと言うヨーグルトドリンクで、完成品が市販もされています。下の写真は日本でもおなじみのダノンが東ヨーロッパ向けに販売しているアイリャンです。

そして、このアイリャンは二日酔い対策にもよく用いられます。

アイリャン商品イメージ
(出典:Айрян Danone)

ブルガリアヨーグルトの伝統

ブルガリアは1/3が山岳地帯という国土で、平野地帯と山岳地帯ではずいぶん気候風土が異なります。そんな中で羊の牧畜が行われる山岳地帯では牛乳や羊乳の発酵乳が盛んに作られています。

牛乳は均質化が行われない生乳を発酵させ、発酵乳の上に浮いてくるクリーム分を使って発酵バターが作られます。そして、残りの液体部分であるバターミルクは、そのまま飲まれることもありますが、基本的には煮詰めてイズヴァラと言うカードにします。

そのイズヴァラを熱湯の中で練って熟成し作られるのが黄色いチーズのカシュカヴァルと、白いチーズのシレネです。

羊乳は、半年ぐらいしか搾乳できないので、秋に搾った羊乳を発酵させ、ブラノ・ムリャコと言う発酵乳にして、搾乳できないシーズンの食べ物にします。製造に一か月、その後半年以上も保存するので、保存期間の後半になると非常に酸味が強くなるということです。

ブラノ・ムリャコは、空気中からの雑菌の入り込みを防ぐため、表面に植物油や水分を含まないバターで覆って保存することが一般的です。乳酸菌は嫌気性菌ですので、酸素の入り込みを防ぐほうが良いので、一石二鳥ですね。

また、ブルガリアでは5月6日の聖ゲオルギの祭日から放牧シーズンが始まります。この祭日は、いわゆる「豊穣を祈る祭日」ですので、昔はその日の早朝、若い女性が樹の葉から朝露を集め、それを牛乳に入れてその年の発酵を始めたということです。

それでできたヨーグルトを、一年間植え継いで行ったのですね。

ブルガリアヨーグルトの近代化

ブルガリアは大戦中にソ連の侵攻を受けて衛星国になり、共産党政権が誕生しました。そのため全体主義的な施策の一つとして、乳酸菌の純粋培養が推し進められたのです。

その結果、東側諸国は、乳酸菌の技術では西側を圧倒したという歴史があります。まだブルガリアがブルガリア人民共和国であった1970年、日本で行われた大阪万博に出品したのが、ブルガリアヨーグルトが世界に広がるきっかけになりました。

当時の明治乳業がそのヨーグルトに目をつけ、明治ブルガリアヨーグルトとして国名を付けたヨーグルトを発売したのはその3年後です。もちろん、ブルガリア政府の許可を得ての国名表示です。

それが人気を博したため、ブルガリア政府は外国へのブルガリアブランドの売り込みに注目し、西欧諸国へブルガリアヨーグルトを浸透させていったのです。

ブルガリアでは「クヴァセノ・ムリャコ」と言うヨーグルトもありますが、これは特定の物を指した言葉ではなく、手作りヨーグルトとでも言うべき、自家製ヨーグルトのことを指しているそうです。

ブルガリアヨーグルトが世界標準になった経緯には、日本も一役買っていたのですね。面白い歴史だと思います。

旧ユーゴスラビアで食べられているプレーンヨーグルト

旧ユーゴスラビアは、20世紀終盤から21世紀初頭にかけて、民主化され6つの共和国に分裂しました。でも政治的なことはともかく、ヨーグルトについてはひとまとめに考えても良いでしょう。

共和国ごとの差は、同じ国の中の食文化の違い程度のものだといえます。

4つの言語が使われているので複数の名称がある

旧ユーゴスラビアの公用語であったセルビア・クロアチア語では、酸乳のことを「キセロ・ムレコ」と言います。ブルガリア語のキセロ・ムリャコとよく似ていますね。

発酵乳の種類としてはプレーンヨーグルトで、見た目もブルガリアのヨーグルトとよく似ています。

キセロムレコ商品イメージ
(出典:Кисело Мляко(キセロ・ムレコ) Terter с Каймак|Онлайн супермаркет(オンラインスーパー))

クロアチア語では、キセラ・バレニカと言う名前で呼ばれているそうですが、中身は同じもののようです。

やはり山岳地帯では保存性の高いものが作られる

ブルガリアの山岳地帯で作られているブラノ・ムリャコによく似たものとしてジムネがあります。最終的にホエーを除いて濃縮するところが異なりますが、やはり長期保存用だそうです。

また、グルゾビナと言う発酵乳は中温発酵乳酸菌で作られるそうですから、おそらくラクトコッカス属ラクティス種などの乳酸菌が中心になっているのでしょう。ヴィーリなどと同じですね。

そして、クロアチアのバーサはやはり濃縮発酵乳です。濃縮発酵乳というとギリシャヨーグルトのイメージがありますが、ブルガリアや旧ユーゴスラビアは南側でギリシャと国境を接していますから、文化的にも近いのかもしれません。

旧ユーゴスラビアの北東部にあるセルビアでは、塩を入れた牛乳を発酵させるスコループと言う発酵乳もあるそうです。

他の東欧諸国では伝統的なヨーグルトが少なくなってきている

どこの国でも大企業が作るヨーグルト製品が支配的になり、伝統的なヨーグルトは少なくなってきているようです。

ハンガリー在住の日本人の方のブログには、スーパーで買えるヨーグルトの80%くらいがダノンの製品だと書かれていました。

ハンガリーでメジャーな製品は3種類

上でダノン製品が支配的だと書きましたが、それはあくまでヨーグルトの話です。現代のハンガリーではヨークート(ヨーグルト)とテイフル(サワークリーム)とケフィール(ケフィア)という3種類の発酵乳が一般的です。

そして、ケフィールは半固形、テイフルは固形で、ヨークートは日本のものよりかなり液体に近いようです。

ハンガリーでメジャーな乳酸菌製品画像
(出典:Sajat markas tejfoloket kostoltunk – A savanykas vagy az edeskes a nyero?(7社のサワークリームの食べ比べ)|NOSALTY)

この画像の出典元であるサイトによると、乳酸菌で発酵させた生クリームというのは、ハンガリー料理に必須のアイテムなのだそうです。乳脂肪20%のものがメジャーだそうですので、日本で見る生クリームの半分程度の脂肪分ですね。

製品によってはそのまま食べられるよう、甘く調味されたものもあるようです。

東欧ではバタースターター乳酸菌が一般的

日本では発酵バターより非発酵バターのほうが人気なので、あまり使われることがないのですが、ヨーロッパではバタースターターと呼ばれる乳酸菌で牛乳を発酵させ、そこから採った乳脂肪を発酵バターにすることがよく行われます。

このバタースターターにもいくつか種類がありますが、最もよく使われているのはラクトコッカス属ラクティス種ラクティス亜種の一つであるbv.(※)ジアセチラクティスです。

この菌はジアセチルと言う独特のバター・チーズ臭を作り出す乳酸菌です。いわゆる「おやじ臭」の原因物質でもあるため、日本では好かれないことも多いようです。でも、発酵によってコクは出るんですよ。

このバタースターターを使って牛乳を発酵させたヨーグルトは東ヨーロッパではよく見られます。旧チェコスロバキア領内やポーランド、ルーマニアでも一般的ですね。

とは言え、こうした国々でも他の国から一般的なヨーグルトが流れ込み、スーパーでよく売られています。

バタースターターを使用したヨーグルト製品画像
(出典:Danone Danio Biate Yogurt Poland|Pinterest)

さらには、商標権にルーズな国でよく発生する商標権に関する問題も発生しています。EUではギリシャヨーグルトと言う名前は使えません。あくまで「ギリシャ風」ヨーグルトとしなければいけないのです。

しかし、チェコで普通に売られているヨーグルトに、チェコ語で「ギリシャヨーグルト」と表示されていて、EUが警告を行ったという話もあります。

チェコで販売されているヨーグルト製品パッケージ画像
(出典:EU warns Czechs over fake Greek yogurt|Bohemist)

こうしたことが起こる原因の一つとして考えられるのは、東欧では濃縮乳ヨーグルトが一般的であるということと関係しているのかもしれません。

ホエーを取り除いて濃縮した発酵乳というのは、ギリシャヨーグルトと共通の部分が多いため、伝統的なヨーグルトに外国風の名前をつけて売るということが起こり得るのでしょう。

さらに、伝統的なヨーグルトや発酵乳製品というのはもちろん存在はしているのですが、一般的には量産品をスーパーで買うのが普通になっているようです。

(※ bv.:論文に使われていた略語なのですが、正確な意味が不明でした。おそらく亜種の下に位置する生物学的な変種だろうと思いますが、とりあえずその略語のまま表記しました。)

なんでも手軽に入手できる世の中というのは、世界が均質化されるというつまらなさを生み出しているのかもしれませんね。

民主化後アメリカや西ヨーロッパの文化が多量に入ってきた

もともと東ヨーロッパでは発酵乳の管理や菌の培養について、西側諸国より進んでいました。しかし、量産技術で勝る西側の文化が、東ヨーロッパの民主化後、一気に流れ込んだようなイメージがありますね。

東ヨーロッパのヨーグルトは、ロシアのケフィアや中温発酵乳酸菌による粘りのあるヨーグルト、濃縮乳やレンネットを使ったチーズとヨーグルトの中間のようなハードタイプに大別されるようです。

その中で、もっとも有名なブルガリアヨーグルトは、他のものとは共通点の少ない特別なヨーグルトというイメージですね。

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