世界のヨーグルト特集。乳酸菌の故郷とも言える、旧ソビエト連邦編

ソビエト社会主義共和国連邦、通称ソ連。1922年から1991年までの間、アメリカと世界を二分した大国です。それを構成していたソビエト共和国は全部で15、最大の国はロシアです。

しかし、私たちがヨーグルトや乳酸発酵食品の話題を出す時、あるいは世界のヨーグルトの中で占める位置づけを見る時、最も注目されるのはウクライナと、アゼルバイジャン・アルメニア・ジョージア(グルジア)の南コーカサス地方の国家です。

もちろん、もともと一つの連邦国家の中にあったわけですから、そうした国々のヨーグルトなどは、今でもロシアで広く食べられています。

それぞれの地方ごとの特色もはっきりしていますので、そうしたことを含めて見て行きましょう。

「世界のヨーグルトや乳酸菌食品・飲料、旧ソビエト連邦編」です。

コーカサス地方はケフィアを産んだ土地

コーカサス地方というのは、黒海とカスピ海に挟まれたエリアで、北部はロシアの一部ですが、南部はアゼルバイジャン・アルメニア・ジョージア(グルジア)の3つの国から構成されています。

世界地図におけるコーカサス地方の位置イラスト

そのコーカサス地方の山岳地帯で作られるのがケフィアです。

このケフィアに含まれる乳酸菌は、世界中で広く用いられるものの一つです。

ケフィアは乳酸菌・酵母の共発酵乳製品

ケフィアは日本でもよく知られている発酵乳ですが、知名度の割に食べたことがあるという人は少ないかも知れません。

というのも、ケフィアは乳酸菌と酵母の共発酵なので、微量のアルコールと同時に二酸化炭素も発生します。日本の食品衛生法では、ケフィアのような乳飲料は完全密封でしか販売できません。

ガラス瓶や炭酸対応のペットボトルのような容器ならいざ知らず、日配品に用いられる容器では輸送中や売り場で破裂してしまう可能性がありますので、ヨーグルトのような形で販売することができないのです。

実際に、日本国内ではケフィアの種菌を粉末にしたものを購入して自分で作るか、ケフィアグレインと言うゼリー状のつぶつぶが集まった種株を入手して、牛乳を発酵させるかしかありません。

▼ケフィアグレイン
ケフィアグレイン写真

ケフィアを作り出している細菌・真菌は、種菌ごとにかなり個性があります。ですので、一概には言えませんが、だいたい中温発酵乳酸菌を中心に、一部高温発酵乳酸菌が含まれることもあります。

さらにアルコール発酵をする酵母が何種類か含まれています。そのため、ごくわずかですが、ケフィアにはアルコールが入っていますし、口当たりを良くする程度の二酸化炭素も含まれています。

ケフィアはコーカサス地方発祥と言われていますが、東欧諸国や北欧諸国の山岳地帯でもよく飲まれている発酵乳です。さらに、西側諸国でも気軽に購入できるようになってきています。

ケフィアヨーグルト商品イメージ
(出典:Полезные свойства кефира, химический состав(ケフィアの有用な特性と化学組成)|okeydoc.ru)

中温発酵乳酸菌は粘りを作ることが多い

具体的にはラクトコッカス属ラクティス種の乳酸菌ですが、この菌は27℃前後で最もよく発酵するため、室温に放置しておくだけで発酵乳を作り出せます。もっと低い温度でも、時間をかければ滑らかで口当たりの良い物ができます。

カスピ海ヨーグルトに使われているクレモリス菌も、この乳酸菌の亜種の一つです。

北欧のヴィーリやテッテメルクなども同じ中温発酵乳酸菌によって作られる、非常に粘りの強い発酵乳ですね。旧ソ連領内でも、こうした粘りのある発酵乳は見られます。

この粘りは、乳酸菌が作り出す菌体外多糖によるもので、特に酸性の菌体外多糖には免疫力アップの効果が期待できるものです。

コーカサス地方では普通のヨーグルトも食べられている

アルメニアには「マツン」と言うヨーグルトがありますし、ジョージアには「マツォーニ」と言うヨーグルトがあります。名前から想像できる通り、言葉の違いだけで、おそらく語源は一緒です。

これは牛乳をブルガリア菌とサーモフィルス菌で発酵させて作る、いわゆる「普通のヨーグルト」です。

▼アルメニアのマツン
アルメニアのマツン商品イメージ
(出典:Matsoun Biokat 500g 5%|Buy.am) 

関西では古くから売られている、毎日牛乳の乳酸菌飲料「ドリプシ」は、ジョージアのアブハジア自治共和国にあるドリプシ村からの命名だそうです。

ウクライナはカラメルヨーグルトの発祥の地

旧ソビエト連邦の発酵乳と言えば、ウクライナを外すことはできません。日本ではあまりメジャーではありませんが、ウクライナやベラルーシ、ロシアの一部では、ウクライナのカラメルヨーグルトがよく食べられています。

別名ウクライナヨーグルトとも呼ばれるこの発酵乳は、キャラメル色をした香りの良いヨーグルトです。

メイラード反応で褐色になったヨーグルト

メイラード反応というのは、加熱されることでアミノ酸と糖が反応して褐色になることで、料理などでもよく利用されるものです。

リアツェンカと言うこのヨーグルトは、伝統的な製法として、牛乳を低温のロシアオーブンで一日じっくり焼くことで、表面に焦げた牛乳の膜ができるまで加熱してから冷まします。

そこにスメタナと言う名前で知られるサワークリームを加えてかき混ぜ、時間を掛けて発酵させるものです。

スメタナには中温発酵乳酸菌であるラクトコッカス属ラクティス種が使われていますので、それが作り出す菌体外多糖によってとろりとした食感が得られるのです。

リアツェンカイメージ画像
(出典:Ряженка в кулинарии(リアツェンカの料理)|receptov.net)

一方、近代的な作り方としては、95℃で2時間から6時間ぐらい加熱した牛乳を冷まして、ブルガリア菌とサーモフィルス菌という一般的な高温発酵乳酸菌を加え、数時間発酵させて作られています。

事前の加熱時間の違いによって、白っぽいものから茶色のものまでさまざまです。

発酵菌やテクスチャが少し異なるものもある

もともとはリアツェンカをしっかり撹拌してドリンクヨーグルト状にしたものをバレネッツと呼んでいたそうです。あるいは、基本的にはリアツェンカと同じ製法ですが、牛乳を1/3の体積にまで煮詰めるので、より濃厚なイメージがあります。

現在では、サーモフィルス菌だけでの発酵で作られるところがリアツェンカとの違いになっているようです。もちろん、加熱して茶色くなっているのは共通の要素です。

バレネッツ商品イメージ
(出典:Варенец(バレネッツ)|ロシア語版 Wikipedia)

ロシアのウラルとシベリア、つまり極東以外のアジアに属するロシア領内では、バレネッツは「焼きミルク」と呼ばれていて、サワークリームではなくクリームを使った非発酵食品のようです。コーヒーに入れて供されるとありました。

現代ロシアの発酵乳は西側とそれほど変わらない

ソビエト連邦が解体したと言っても、ロシアは相変わらず世界最大の面積を持っています。ですので、アジア側とヨーロッパ側では食文化も大いに異なります。

モスクワあたりの大都市で、スーパーで売られているヨーグルトのバリエーションは、欧米や日本の大都市とそれほど変わらないようです。

プレーンヨーグルトやフルーツ味を付けたもの、ヨーグルト飲料、フレッシュチーズの系統など、日本でもよく見られるものです。それに伝統的な名前がつけられていたりして、ちょっと混乱しそうにもなります。

プロストクワーシャは伝統的なものに使われるはずの名前

プロストクワーシャと言うのは、ラクトコッカス属ラクティス種などの中温発酵乳酸菌によって作られた伝統的なヨーグルトです。

一方、ロシアでメチニコフ・プロストクワーシャと言うと、ブルガリアヨーグルトをモデルに作られた高温発酵乳酸菌によるヨーグルトのことを指します。

ところが、口語ではブルガリアヨーグルトのことをプロストクワーシャと呼んでいるようですね。あるいは「ヨーグルト」と言う名前で呼ばれることのほうが一般的かもしれません。下の画像の”Йогурт”は、「ヨーグルト」と発音します。

ロシアでみられるダノンヨーグルトイチゴ味商品イメージ
(出典:Йогурт Danone нежный клубничный(ヨーグルト・ダノン・甘いイチゴ) | Отзывы покупателей(カスタマーレビュー))

一方、プロストクワーシャと言う名前で販売されているものもたくさんあります。下の画像は、メチニコフ・プロストクワーシャ(ブルガリアヨーグルト)になります。

メチニコフプロストクワーシャ写真
(出典:Что такое мечниковская простокваша(メチニコフ・プロストクワーシャの利点)|zakvaska-ferment.ru)

コーカサス地方のケフィアはモスクワでもメジャーな存在

コーカサス地方から見ると、モスクワは2000kmほど北の方にありますが、スーパーで売られている乳酸菌製品は、ケフィアが最もメジャーなのだそうです。

また、ウクライナのリアツェンカをロシア語読みしたリャージャンカと言う乳酸菌製品は、ロシアではドリンクヨーグルトのようなものであるようです。

詳しい情報がありませんでしたので正確なところは判りませんが、地域が変わると食品も変わるのかもしれません。日本でも、縄で縛れる富山の五箇山豆腐と京都の絹ごし豆腐では、とても同じ豆腐とは思えないですよね。

ロシア料理に欠かせないトヴォロク

トヴォロクは、いわゆるカッテージチーズです。非乳酸発酵のカッテージチーズが多いことに比べると、トヴォロクはヨーグルトからホエイを抜き取って濃縮したフレッシュチーズですので、立派に乳酸発酵食品です。

ロシアの料理ではスメタナと並んで欠かせない乳製品となっています。

トヴォロク商品イメージ
(出典:Творог Вкуснотеево(商品名:味わい深いトヴォロク)|irecommend.ru)

ロシアは非常に大きな国ですので、各地方ごとの固有のヨーグルトを紹介していたら大変です。機会があればもう少し突っ込んで解説しますが、今回はモスクワ近郊の話題になりました。

中央アジアは独自の発酵文化を持っている

旧ソビエト連邦の中央アジア諸国は、モンゴルの西隣にあたり、やはり遊牧民族の国々ですから、ロシアよりモンゴルに近い発酵食品の文化を持っています。

その中でも特筆すべきは馬乳酒ですね。CODEX規格にも規定があるぐらい、世界的にメジャーな乳酸菌発酵飲料と言えるでしょう。旧ソビエト連邦の地域ではクミスと言う名前が一般的です。

馬乳酒は混合発酵で作られる

もともと遊牧民族が自家製で作っていたもので、それが植え継がれてきたことから、さまざまな菌が関わっています。そういう意味ではケフィアと似ていますが、アルコール度数はこちらのほうが格段に高くなっています。

ケフィアでは日本の酒税法でお酒にならない1%未満ですが、クミスは3%前後までアルコール度数が上がる、立派なお酒です。

発酵に関わる菌は、簡単にまとめることが難しいのですが、ラクトコッカス属やリューコノストック属、ストレプトコッカス属の球菌、桿菌のラクトバチルス属、酵母のサッカロマイセス属やクリベロマイセス属などが知られています。

現在では工業的に作られている

現在のクミスは、上で紹介したような発酵菌から、品質の高いものを作れる菌株を選んで純粋培養し、スターターとして使っています。

ですので、品質の揃った商品が入手できるようになっています。

クミス商品イメージ
(出典:Современный кумыс(現代のクミス)|Food and Health Russia)

数々の発酵食品があるが日本ではあまり知られていない

中央アジアの発酵食品で、日本で一般的に知られているのはクミスだけだと言って良いでしょう。同じようなお酒ではトルクメニスタンのブーサがありますが、これは穀物を混合して発酵させるため、ビール以上のアルコール度数があります。

カザフスタンでは馬乳酒ではなくラクダ乳酒のシュバトがあります。また、同じラクダ乳からはチャルと言う発泡性の飲料も作られます。発泡するということは、少ないながらもアルコールが含まれているでしょう。

その他にも、ホエイを除いて濃縮し、調味したり成形したりした様々な食品が存在しています。遊牧という生活形態に即したものなのでしょう。

随分前になりますが、日本の酒造会社がクミスのような乳酒を開発してリリースしたことがありましたが、あっという間に姿を消してしまいました。残念です。

代表的なのはやはりケフィア

旧ソビエト連邦の発酵乳には、実にさまざまなものがありますが、その中で世界標準といえるのはケフィアと馬乳酒です。いずれも製法がCODEX規格に規定されています。

そして、やはりケフィアのほうが世界中で飲まれているようですね。コーカサス地方は乳酸菌健康飲料の故郷と言えるのかも知れません。

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