塩麹の乳酸菌効果。肉や魚よりも野菜を漬けてほしい理由

塩麹は大変便利な調味料ですね。私は赤身の肉を調理するときによく利用します。赤身肉はどうしても加熱調理で固くなりやすい上に、パサツキが気になります。

一般的な手法としては、オリーブオイルなどの食用油に漬け込むことで、しっとり柔らかく仕上げることもできますが、これでは脂肪が少ない赤身を選んだメリットがスポイルされます。そんなときに便利なのが塩麹です。

この塩麹、調味料として優秀なだけでなく、意外にもコウジカビのほか乳酸菌も抱え込んでいるケースが見られ、それによる健康効果が多少は期待できるかも知れないのです。

塩麹の土台「麹」は穀物にコウジカビなどの菌を繁殖させたもの

麹といえば、米にコウジカビを繁殖させ、常温管理が可能な状態に乾燥させたものが一般的ですね。もちろん醸造の現場では乾燥の工程を経ない生麹も使われますし、麦や大豆を培地にした麦麹や豆麹も使われます。

こうしたものに対する知識から、麹=コウジカビと言う概念が定着していますが、実は麹はコウジカビだけを純粋培養したものではなく、原料などに由来する乳酸菌など、他の有用菌も繁殖しているのです。

麹はこうして作られる

私たちが店頭で購入する乾燥麹の製造は、まず生麹を作るところから始まります。蒸した米に、コウジカビをふりかけて均一に混ぜ、全体にそれを繁殖させます。

それが生麹です。そして、それを「除湿運転する冷蔵庫」のようなイメージの低温乾燥機で、菌を保護したまま乾燥させたのが乾燥麹です。一旦乾燥してしまうと、コウジカビは胞子の形で休眠状態に入りますので、常温保存が可能になります。

その胞子に水分と適度な温度を与えてやると発芽して再び繁殖を始めますので、保存中は湿気に充分注意して下さい。もちろん乳酸菌など、ほかの有用菌も低温乾燥ですから死滅はしません。

一方、生麹は低温乾燥の工程を経ていないため、微生物の数とパワーが乾燥麹よりずっと強いです。つまり少しの麹でたくさんの穀物などを発酵させられるということです。ちょっと専門的には「力価が高い」という言い回しをすることもあります。

これは損得の問題ではなく、最終製品の味にかかわる問題なのです。麹には独特の香りがあり、それが強すぎると最終製品の美味しさがスポイルされてしまいます。そのため、少量の麹で発酵を進められる生麹のほうが、最終製品の味が良くなるのです。

しかし、家庭で麹を利用する場合は、保存性や流通量の問題から乾燥麹を利用することが一般的です。もちろん通販で生麹を購入することは可能です。クール便の配送で、賞味期限は半月ぐらいでしょう。

値段については、乾燥麹を戻した時の重量と生麹の重量の比率で計算した場合、だいたい同じ程度ですから、自家製の味噌を仕込むときのように、一回で使い切れるのであれば生麹にチャレンジするのもおすすめです。

コウジカビは酵素を使って栄養を作る

麹に使われている菌はアスペルギルス属に分類されるカビの一部です。最もメジャーなのはオリザエ種(オリゼー種)で、コウジカビ属ニホンコウジカビ種という和名を持っています。

日本の国鳥がキジであり、国蝶がオオムラサキであるように、日本の国菌はこのアスペルギルス属オリザエ種であるニホンコウジカビなのです。冗談ではありません、2006年に日本醸造学会で正式に認定されているのです。

ニホンコウジカビ画像
(出典:Barbara bee : Gieskannenschimmel – Aspergillus)

この胞子とその柄の部分が特徴的なので、ニホンコウジカビの姿はこのような姿がよく紹介されます。漫画「もやしもん」の菌界側の主人公、オリゼーもこの部分をデフォルメした姿で描かれていますね。

しかし実際の菌糸は、後ろに写っている紐のような部分です。ここから様々な酵素を分泌してたんぱく質やでんぷんを分解するのです。

そのうちの一つが、でんぷんを分解する酵素アミラーゼです。最初にこれを発見したのは製薬会社の三共の創業者です。その商品名「タカジアスターゼ」は発見から100年以上たった今も、第一三共ヘルスケアの胃腸薬に配合されているのを見ることができます。

また、たんぱく質を分解する酵素プロテアーゼや、食物繊維のペクチンを分解する酵素ペクチナーゼ、果ては紙の繊維であるセルロースまで分解する酵素セルラーゼなども作り出します。

ですので、でんぷんを大量に含む白米にニホンコウジカビが作用すると、でんぷんがたくさん分解されます。でんぷんはブドウ糖がたくさん集まってできていますから、それが分解されると甘みを感じるようになります。

麹の甘みはこれによって生み出されているのです。そして、このブドウ糖にアルコール酵母が働くとお酒ができます。逆に酵母を働かせず、白米粥に麹を入れて保温するだけで、甘酒になるというわけです。

実はセルロースもブドウ糖が集まってできていますから、分解できれば甘味が期待できるんですよ。人間はセルロース分解酵素を持っていないので、紙を食べても美味しくありませんが。

麹には乳酸菌が含まれている

もともと麹を仕込む際に、コウジカビ以外の菌も一緒に含まれる機会は充分にあります。先にお話したように、乳酸菌は意外に多く含まれるようですね。

好気性の真菌類であるコウジカビに比べると嫌気性細菌である乳酸菌は、培地の表面で繁殖しにくい分、塩分濃度が高いと増殖しにくいです。しかし、一般細菌に比べると耐塩性の高い種が多いのも乳酸菌の特徴なのです。

塩麹の塩分濃度に乳酸菌は耐えられるのか

塩麹をそのまま食べてみると、かなり塩辛いことが判ります。果たしてこの塩分濃度に乳酸菌は耐えられるのでしょうか。上で紹介したレシピの場合、200gの麹に250mLの水と60g~70gの塩を入れていますから、重量濃度で11.76%~13.46%の塩分になります。

醤油乳酸菌として知られるテトラジェノコッカス属ハロフィルス種は18%の塩分濃度でも増殖可能な乳酸菌です。しかし、例えば乳酸桿菌の代表、ラクトバチルス属は8%程度でも増殖が止まります。

ですから重要なのはどの乳酸菌が麹にいるのかということですね。

富山県農林水産総合技術センター・食品研究所の分析によると、麹からは5種9菌株の乳酸菌が分離されたそうです。

  • リューコノストック属ファラックス種:1菌株
  • リューコノストック属シトレウム種:2菌株
  • ラクトコッカス属ラクティス種(亜種不明):4菌株
  • ワイセラ属コンフューサ種:1菌株
  • カルノバクテリウム属ディバージェンス種:1菌株

(参照:植物性乳酸菌の探索・分離と食品への利用|富山県農林水産総合技術センター・食品研究所)

ヨーグルトなどでよく見かける乳酸菌はありませんね。この中でもリューコノストック属とラクトコッカス属は醤油乳酸菌ほどではないものの、耐塩性が高い乳酸菌です。

また、この研究の中で見つかったラクトコッカス属ラクティス種SIY8株は、免疫賦活効果が高いラクトコッカス属ラクティス種クレモリス亜種H61株より、さらに2倍の免疫賦活効果が確認されたそうです。

この特別な効果をアピールして、当初は青汁ドリンクヨーグルトとして商品開発も行われたようですが、現在は製造を中止しているようです。

塩麹の乳酸菌を期待するなら野菜を漬けて食べる

塩麹は塩分濃度が高いので、乳酸菌が生きていてもそれほど繁殖できるわけではありません。また、多くの調理法では塩麹も加熱されることが多いですね。そうなった場合、数の少ない菌体成分では、充分な健康効果が期待できません。

もちろん、肉や魚のたんぱく質に働いて、柔らかくしてくれる酵素が活性化する程度の温度と時間があれば、乳酸菌もある程度は増える可能性がないわけではありません。それでも肉や魚と一緒に焼いてしまうと菌は死んでしまいます。

そこでお勧めなのが「野菜の塩麹漬け」です。よく洗った生野菜を適当な大きさに切り、塩麹をまぶして、半日くらい室温で置いておくだけです。

一般的な野菜の塩麹漬けは、冷たい食感と保存性を考えて冷蔵庫で漬け込みますが、これでは菌の増殖はありません。一方、野菜の水分で塩分が薄まりますから、室温においておくと乳酸菌と同時に、雑菌の繁殖の可能性もあります。

ですから、朝仕込んで夕食に食べるくらいがベストでしょう。翌朝まで放置すると雑菌の繁殖が怖いです。できれば食べる2時間前くらいに冷蔵庫に入れて冷やすと、食感が良くなります。

塩麹の量は野菜の重量の10%~30%くらいで良いです。塩味の好みで量を加減して下さい。食べる前に軽くしぼってもいいですが、塩味が充分薄ければ、切るだけにして塩麹ごと食卓に出してもいいでしょう。

野菜を漬け込むことで、野菜由来の糖質や食物繊維が乳酸菌に利用され、乳酸菌の増加も少しは期待できるかもしれませんね。

なお、肉や魚を塩麹に漬けておく場合、冷蔵庫で保存しないと柔らかくなりすぎる場合がありますし、雑菌の繁殖も心配です。また、数日に渡って漬け込むと、肉や魚に移行する塩分が多くなりすぎるのでお勧めできません。

できれば、朝漬けて夕食用にするぐらいがベストですが、長時間漬け込む場合は冷蔵保存するのはもちろん、塩麹の量を減らして、塩分の絶対量を抑えましょう。

醤油乳酸菌が棲んでいれば塩麹の塩分濃度でも、もっと乳酸菌として活躍するのかもしれませんが、そうなったら塩麹に酸味が付いてしまうかもしれませんね。

塩麹は自家製で簡単に作れる

塩麹は市販品を購入してもいいですが、自家製で作ると麹の菌が多少は多くなるかもしれません。第一、かなり安上がりに作れますので、自分で作ることをお勧めします。

材料は乾燥麹と水と塩だけ。原価は塩麹100gあたり100円未満で作れるでしょう。ヨーグルトメーカーを持っている人なら、朝仕込んで夕食に間に合いますよ。

ヨーグルトメーカーを使うと実に簡単に作れる

乾燥麹は200g単位で売られているのをよく見ますので、それでお話しましょう。開封した乾燥麹は1回で使い切る方が良いです。同じ理由で、店頭で求める際にはパッケージに穴があいていないかをチェックして下さい。

乾燥麹200gに食塩を60g~70g入れて、手でこすり合わせ、麹をほぐすと同時に食塩をよくなじませます。そこに冷たくない水を250mL注いで、よくかき混ぜます。

ヨーグルトメーカーを使う場合は、60℃6時間にセットしてスイッチを入れるだけです。6時間後には完成します。塩麹が固い場合は、一度沸騰した湯冷ましを加えて調整して下さい。保存は冷蔵庫で行い、たまにはかき混ぜてやりましょう。

もちろんヨーグルトメーカーなしでも作れる

ヨーグルトメーカーを使わない場合は、塩と麹を合わせたものに、お風呂程度の温水を麹が完全に浸り、かつ横から見て麹の上に水の層が見えないくらいのギリギリのところまで入れます。そしてよくかき混ぜ、ラップなどをふんわりかけて、室温に置きます。

毎日最低1回はかき混ぜることを繰り返して行けば、夏場で1週間くらい、冬場で2週間くらいで完成します。仕込んだ翌日に麹が水の上に出た場合は、水を追加してかき混ぜて下さい。水の追加はこの時一回きりです。

でき上がりの判別は、麹が柔らかくなって甘い香りが感じられるようになった時です。完成したら冷蔵庫で保存しましょう。

実に簡単ですね。調味料として使うのはもちろん、野菜を漬け込んで、塩麹漬けにして食べるのも美味しいですよ。

塩麹は発酵食品だが乳酸菌の恩恵は補助的なものだと考える

塩麹は乾燥麹に水分を加えて発酵させた段階で、立派な発酵食品ですし、コウジカビや乳酸菌も活性化します。それでも塩分濃度の関係で、本来の力は出し切れていない可能性が高いです。

その上、調味料として使う量では、乳酸菌の数は充分ではありません。しかし、ゼロではないので、毎日食べる発酵食品の中に加えることで、補助的な役割は充分果たしてくれるでしょう。

ここからは余談ですが、私たちは乳酸菌とコウジカビはどちらも微生物なので、似たようなものだと考えがちです。でも、実際にはかなり異なる性質を持った生き物なのです。

全生物は真核生物・真正細菌・古細菌の3つのドメインに大別されます。乳酸菌は真正細菌ですが、コウジカビは真核生物です。そして、私たち人間も真核生物です。

つまり、コウジカビは乳酸菌より人間に近い生き物なのです。ちょっとびっくりですね

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