ヨーグルトの歴史がおもしろい!起源にまつわる乳酸菌の話

ヨーグルトに代表される発酵乳が、どこで、いつごろから作られ始めたかということについては、あまりに古いことなので性格なところはわかっていません。

しかし世界のヨーグルトの始まりが中東であることはほぼ確定的ですし、おそらく8000年を超える歴史があるのではないかと考えられています。

ヨーグルトにまつわるいろんな歴史やおもしろ話をちょっと紹介しましょう。

牧畜が始まると同時に発酵乳は作られ始めた

おそらく、最初のヨーグルトはミルクを貯蔵するという作業のさなかに偶然起こった発酵が、人間にとって役に立つものだったことから、それを再現したことに始まったのではないかと考えられています。

つまり、ヨーグルトの歴史は、ほとんど牧畜の歴史とイコールなのではないかと考えて差し支えないということです。

最初のヨーグルトは環境由来の乳酸菌によって作られた

今でも伝統的な製法で作られているヨーグルトの多くは、環境中にある乳酸菌を利用しているものがあります。牛乳を革袋や乾燥させた内臓や木桶などを利用して保存することで、そこに住む乳酸菌や酵母で発酵させているのです。

▼ケフィアの革袋
ケフィアの革袋写真
(出典:Sour Milk “Kefir” carried in leather pouches. |Pinterest)

一度発酵乳が完成したら、その一部をスターターとして植え継ぐと言うことも、多くの地域で見られる習慣です。

最新のものでも、私たちがヨーグルトメーカーに牛乳と市販のヨーグルトを入れて手作りヨーグルトを作るのは、この植え継ぎと全く同じ手法を使っているわけです。

最初のスターターとなる乳酸菌は、例えば乳搾りを行った際に、動物の乳房に付着していた、その動物の常在菌であったかも知れません。乳酸菌は動物の常在菌としては珍しいものではありません。

また、空気中にも乳酸菌が漂っていることもありますし、容器に付着していることもあります。

ブルガリアの伝統的な製法の場合、牛の放牧が始まる「聖ゲオルギの祭日」(5月6日)に、乙女が樹の葉から朝露を集めて牛乳に入れ、その年の発酵を始めるということです。

つまり、樹の葉に常在する植物性乳酸菌や、朝露と言う凝結した水に溶け込んだ空気中の乳酸菌を利用するわけですね。それを一年間植え継いで行きます。

▼伝統的な道具で羊乳からヨーグルトを作るブルガリアの少女と弟
伝統的な道具で羊乳からヨーグルトを作るブルガリアの少女と弟
(出典:СИРЕНЕТО СЕ ПРАВИ С ЧАЛЪМ, ХЛЯБЪТ СЕ ЗАМЕСВА С ЛЮБОВ(チーズの魅力・パンの愛)|Култура ON AIR)

動物由来の場合チーズの始まりにも関わっている

チーズは、乳酸菌で発酵させたミルクに、レンネットという凝乳酵素を加えることで、凝固したたんぱく質とホエイを分離させて作ります。

現在一般的になっている、真菌類を利用して作り出しているものではなく、大昔に見つかった伝統的なレンネットは、仔牛や仔羊など、まだ哺乳期間にある反芻動物の第4胃から取れる物質です。

ですから、仔牛や仔羊の胃袋を乾燥させて容器として使っていて、そこにミルクや発酵乳を詰めたところ、レンネットが働いてチーズのもととなるカードができたのではないかと考えられています。

発酵乳の歴史は牧畜と同時に始まった

牛や羊、ヤギ、ラクダ、馬などを飼うことで、そのミルクを利用できるようになると同時に、それを貯蔵することが行われ始めたはずですね。

乳酸菌による発酵でヨーグルトができるのには、条件さえ良ければ数時間から十数時間しかかかりません。ですから、もしかすると、歴史上初めての搾乳の翌日には、初めてのヨーグルトが出来上がっていたかもしれないのです。

歴史というより、考古学のレベルの年代になりますが、発酵乳が作られ始めたのは紀元前6000年~8000年くらいにまで遡るのではないかと考えられています。つまり、発酵乳には少なくとも8000年の歴史があると言うことですね。

ヨーグルトやチーズは牛乳の保存形態の一つであり、少し時代が下がってからは美味しさを追求するためのものでした。健康をうんぬんするようになったのは、ほんの100年余りの短い歴史に過ぎません。

ヨーグルトは思ったより長い歴史を持っていたんですね。搾ったミルクが、翌日には酸っぱく固まっていたのを見つけた最初の人はどんなふうに感じたのか、想像すると面白いですね。

牧畜と発酵乳はメソポタミアで始まり乾燥アジアに広がった

乾燥アジアというのは、北側の東はアフガニスタンとイラン、北側の西はトルコ、南側はアラビア半島あたりの、砂漠と草原が覆う地域です。

古代メソポタミア文明は、現在のイラクの一部で発達した世界最古と言われる文明です。教科書にも出てきましたね。イラクのジャルモ遺跡からは、紀元前8000年頃のものと見られる、牧畜と栽培農業の遺構が発見されています。

数千年を掛けて世界に広がった乳製品利用文化

メソポタミアで始まった牧畜文化は、その後ゆっくりと乾燥アジア全体に広がって行きます。そして、紀元前2000年頃までには、おおむね現在伝統的な発酵乳文化を持っているエリア全体に伝播したと考えられています。

最も北東のルートとしては、中央アジア経由でモンゴルへ、あるいは現在の中国経由でもモンゴルへ伝わったと考えられています。その文化が、西暦7世紀頃に日本にも伝わり、いわゆる「酪」や「酥」などになったとされています。

一方、反対の南西方向へは、北アフリカから東アフリカに伝わっています。これらは乾燥していたり、冷涼であったりという気候の地域に、そのエリアの気候に応じた発酵文化を拓きながら伝わったのです。

逆に、モンスーンアジア、熱帯性アジアへはインド・パキスタンあたりのルートで伝わっています。こちらは気温が高く湿潤な気候ですので、北東ルートなどとは、全く異なった発酵技術が生まれたと考えられます。

クリームの分離・自然発酵によるチーズ

昔のミルクですから、搾って容器に入れ静かに置いておくと、表面に脂肪分のクリームが浮いてきます。あるいは、自然発酵による凝固や、動物の胃袋を利用した容器由来のレンネットによって、チーズのもととなるカードが生まれたりもしました。

こうした技術は、メソポタミアに端を発して、エジプトやインド、中央アジアに広がって行きます。例えば、イラクの北の端はカスピ海や南コーカサス地方に接していますので、ここからもヨーグルト技術が伝わった可能性はありますね。

この伝播はおおむね紀元前4000年~2000年頃までには発生していたようです。ただ近年、ポーランドで紀元前5500年頃のチーズ製造に関わる遺構が発見され、これまでの考え方に一石を投じています。

さらに、古代ギリシャでも、紀元前6000年以前にチーズがあったということも言われています。それがメソポタミアから伝わったものなのか、それとももっと早くからヨーロッパに発酵乳技術が生まれていたのかは、今後の研究に待たなければなりません。

今後の研究いかんによっては、発酵乳の歴史が1万年に届く可能性も出てきそうですね。ロマンを感じてしまいます。

偉大なる伝播はヨーロッパへの経路

もう一つの伝播経路は、おそらく現在のトルコの領内を通ってヨーロッパ、バルカン半島へと到達したものです。バルカン半島にはブルガリアやギリシャなど、現代のヨーグルトをリードする国々があります。

長い時間、伝統的な発酵乳食品として連綿と伝わってきたブルガリアのヨーグルトが、19世紀から20世紀にかけて健康に役立つ食品として再発見されたのは、誰もが知っている歴史ですね。

バルカン半島経由でヨーロッパの食文化を変えた

乾燥アジアからバルカン半島へ伝わった牧畜文化は、ヨーロッパに定着しその食生活を大きく変えました。おそらく狩猟が中心だった肉食文化は、牧畜によって常に安定して食肉が手に入るようになります。

同時に、それまで口にすることのなかった乳製品が、どんどん定着していったでしょう。発酵乳については、気候風土に左右される部分が大きいですが、ヨーロッパへの入口になったバルカン半島では今も発酵乳は盛んですね。

そして、そこからはさらにヨーロッパ全土へと広がります。ただ、発酵乳に関しては東欧・北欧でのほうが、西欧より盛んになったイメージがあります。

ロシアへはコーカサス地方経由?

ロシアエリアに牧畜分化が伝わった経路としては、バルカン半島から大回りしてヨーロッパ経由で入るルート、コーカサス地方を経由して乾燥アジアから直接入ったルート、モンゴルを経由して入ったルートなどが考えられます。

現在の発酵乳文化の隆盛を考えると、どれもアリだとは思いますが、やはりコーカサス地方など、カスピ海・黒海まわりのルートを考えるのが妥当だと思います。

モンゴルからのルートは馬乳酒の系統の、アルコール入り発酵乳飲料を伝えたであろうと思われます。

ヨーロッパの牧畜分化は、実はアジア生まれだったんですね。ちょっと意外な感じもしますが、砂漠地帯の遊牧民の存在を考えれば、それもありそうです。

ヨーグルトの再発見はブルガリアで行われた

乳酸菌は19世紀半ば、近代細菌学の開祖と言われる、フランスのルイ・パスツール氏の手によって発見され、発酵という現象が明らかにされました。

そのルイ・パスツール研究所の主任研究員となった、ロシアのイリヤ・メチニコフ氏は、20世紀の初めごろ、ブルガリアに長寿の人が多いのは、ヨーグルトを常食しているからだという研究を発表して注目を集めます。

そして、それ以来乳酸菌の研究が世界中で行われ、現在のように属・種の分類を掘り下げて、菌株ごとの乳酸菌の特徴を活かした製品が市場に出回るようになったのです。

私たちは、1万年に届こうかと言う乳酸菌による発酵乳の食習慣を受け継いで、その恩恵に預かれるのですから、なんとも贅沢な話ですよね。

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